それから7ヶ月ほどが経った。忙しかったし冬だったという事もあり、釣りはあの謎の超巨大魚との邂逅以来行っていなかった。その年の冬は大停電はあるは、記録的に寒いは、と散々な冬であった。雪が降る事は北島では少ないらしいが、とにかく雨が多い。ニュージーランドはよく「一日の中に四季がある」と言われるが、それは夏の話である。冬はひたすら冬であり、おまけに雨季ともいえるくらいに雨の日が多い。来る日も来る日も雨が降り、わかった、もういい加減にしてくれ、と気が狂いそうになる程だ。じっさい、寒いし風は強いし雨は降るしで、人のやる気をとことん削いでくれる気候である。刺激的な毎日を求める若年層では、その欲求とのギャップからか鬱になってしまい自殺をする若者が多く、問題になるほどなのである。私はむしろ静かな生活を求めてこの国に移住してきたため、日々の生活にそれほど刺激を求めているわけではないが、そんな私ですらうんざりしてくる頃、やっと暖かくなり始める。冬が陰鬱な分、春の到来、いや初夏の到来というべきか(あまり春は感じずいきなり冬から初夏になる感じなので)、とにかく冬の終わりはそれだけに喜びはひとしおである。そんなある日、私の中で釣りのムシも蠢きだし、「そうだ、ワイカト川に釣りに行こう」と思いついたのだ。
あの超大物に逃げられたポイントに着くと何か様子が違う。以前はなかった廃車が2台、そのかわり鳥の死骸やらゴミやらでごちゃごちゃしていたのがきれいになっていた。「あれ?ここのはずだよなぁ?」と思いながら車を降りると、いきなり背後から声が!びくっとして振り返ると(別にびくっとするほどやましい事はしてないのだが、まさか人がいるかとは思わなかったのである)、半裸の男が「どうしたんだい?車でも故障した?」とにこにこしている。「いや、ちょっと見て回ってるだけなんだけどね」と返事をした。するとやにわにどこかから犬が猛然とダッシュしてきて、私の足にからみつく。と言っても攻撃的ではなく、極めて友好的な雰囲気だ。頭をなでてやると、その男は「そいつはフレンドリーなんだ。まだ子犬なもんでね」と笑っている。私もせっかく1時間かけてここまできたので、変な男がいるからと言ってすごすご引き返すわけにはいかないので、「ここは以前と変わったねえ。前は桟橋かなにかの残骸みたいなのがなかった?」と言いながら犬とじゃれあいながら、その男の方に近づいていった。男は「へ?そうかい?いつ頃、前来たのって?」というので、「うーん、1年まではいってないとおもうけど・・・」「ふーん、うん、いまここはボートランプにしようとしてるんだよ」という。と言いながら、何か廃車のなかから太さ4、5cmはありそうな鎖をジャラジャラと持ち出している。私は思わず、「うげ、こやつまさかオレのことその鎖で縛って強盗でもしようってんじゃないだろうな」と思ってしまった。まわりは人家もなく、めったに車もとおらない川沿いの人気ない場所なので、ちょっと警戒したが、そんな私の警戒をよそに男は犬を捕まえて鎖につないだ。
ほっとした私に男はさらに話しかけてくる。「ここへは釣りに来たのかい?」またまたぎくっ、なんでわかるんだ、と一瞬思ったが、こんなとこ釣り以外に来る奴いないかと思いながらあらためて男を観察した。心なしか何か異臭が漂ってくる。おそらく男はここに住み着いているのだろう。日本でも河原というのは浮浪者天国だ。ま、でもいい奴そうなので、そろそろ潮時かと思って本当の事を言った「そうなんだ。以前ここに来たとき超大物がかかって逃げられてね。その仕返しにきたんだよ、今日は」「ふーん、まあゆっくりしていってよ」とまるで自分の家かのような口ぶりで言う男。オマエの場所かい、ここは!とちょっと思ったが事を荒立てるのは得策ではないので「うん、ありがとう」とにこやかに答えて釣り道具を引っ張り出して釣りを始めた。
釣りを始めて気がついたのだが、以前あったスクラップがなくなってしまっていたので、竿を立てる場所がない。とりあえず、手ごろな木の枝でもないかとがさごそ茂みでやっていると、男が「どうした?大丈夫かい?」とどこかから聞いてくる。私は、男が何か見られてはまずいもの(死体とか!)でも茂みに隠していて、それでやたらと気にしてくるのかと、ホラー映画の様な事を考えてしまったが、素直に「うーん、何か竿を立てるのが欲しいんだけど・・・」というと、男がどこかから現れて、「あ、それなら、この辺におあつら向きなのがあったと思うんだ」などといって、直径5cm程の円筒形の鉄パイプを持ち出してきた。そしてその鉄パイプとともに持っているのはでっかいハンマー!う、これはいよいよジェイソンタイムなのか!と思い、一瞬身構えたが、男は普通に岸辺に行って、「この辺でいいかい?」などと言っている。私も近寄っていって、「うん、ばっちり」と言いながら鉄パイプを支えるのを手伝おうとすると、男は「ノーノー、もし手元がくるったら大変だからね。オレがするから見てて」と言って独りでその鉄パイプをがんがんハンマーで地面に打ち込んでしまった。
おあつらえ向きの竿立てが出来たので、御礼をいうと、彼は「OKOK、オレはその辺に居るから、何かあったらいつでも呼んでくれよ。オレの名前はティムだよ」と、相変わらず、まるで自分のうちに来た客をもてなすかのようなフレンドリーさだ。さすがに私も警戒心が解けてきて、「有難う」というしかなかった。自分の名前までは言うのを忘れてしまったが。
そして再び釣りを始めた。以前に来たときは投げ込むやいなやアタリがあったのが、今回は待てど暮らせどあたりがない。今度の竿は3.6mあるので、竿立てに立てると、アタリを見る竿先がはるか上方になってしまうため、まるで阿呆の様に空をずっと見上げてないといけない。首がつかれるので、ちょっと離れて遠くから監視することにした。すると、ぴくぴくっと竿先が言い出した。あわてて近寄ってやにわにあわせる。何かがかかっている手ごたえはあるが、まったくあの超大物とは桁はずれな些細な引きだ。ゴボウ抜きにあげてみると、またヤツだ・・・。しかも小さい。蒲焼にちょうどよさげなサイズの子供のウナギだった。とはいえ、ボウズからは開放されたうれしさから、ティムに見せようと、「釣れたよー、ティーーーーム」と大きな声で言って見た。だがまったく人の気配がしない。どこかに行ってしまったのかと思って、針をはずそうと格闘していた。また針を飲まれかけている。だがなんとか取れそうだったので、取ってやろうとするのだが、そこはウナギである。まったく手に捕まえることができない。かれこれ10分くらい格闘していると、
ティムが突如現れた!
(つづく)
2006年11月28日
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おもしろいキャラが登場しましたね。コメディーを観ているようです(笑 彼もここで釣りをやるんでしょうか?
ティムの話はまだ続きます。もう大分忘れてきてしまってますが(^^;