ここニュージーランド北島を流れるワイカト川。北島の中心部から西のタスマン海側に流れ込む大河である。その流域には牧場が多く、それら牧場からの汚染水が多く流れ込むせいだろうか、最近は汚染が進んでしまい実際に見てみても清らかな清流とはいい難い風情である。そんな川の水をニュージーランド最大の都市オークランドの住民は水道水として利用しているらしい。それでも日本の様に第二次産業が発達しているわけでなく、流域の人口も知れているせいか、思ったほどひどくはない。このワイカト川下流域に多くのナマズが棲むという。ニュージーランドに棲むナマズは基本的には北米から移入されたものであり、その爆発的な増殖力と悪食で現地では「害魚」扱いである。例えばナマズを釣り上げた人はリリース(逃がしてやること)してはならず、また、他の水系に移入してもならない、というルールまであるらしい。つまり「必殺」という事だ。日本でいう、ブラックバスと同様な扱い、いや、それ以上に徹底して嫌われていると言える。何はともあれ、そういうナマズ情報を得た私は、ある日早速ワイカト川の中・下流域偵察に出かけた。買ったばかりのボロ車の長距離試運転を兼ねて。
オークランドから南に走る高速道路を走っていると、途中から大きな川が見え隠れしだす。よさそうなポイントがあっても高速道路途中で車を止めてゆっくり釣りをするわけにもいかないので、適当な場所を捜し求めて走り続けた。川に接したサービスエリアの様ものがあったので、そこで高速を降りた。実際、そのサービスエリアの様なところは、その駐車場がワイカト川に面しておりおあつらえ向きであった。早速車を停めて河原に下りて、しばらく川面を眺めていると、なにやら魚が跳ねている。なんだろうと思いながらも、とにかく魚はいる、という事で釣りをはじめた。しかし待てど暮らせどアタリらしきものはなく、しかも思ったより流れが速く仕掛けがすぐに流されてしまう。もう少し重いオモリを用意してくるべきだったかな、などと考えて悪戦苦闘していると、トラック野郎の運ちゃんがトラックを降りて話しかけてきた。
「何か釣れたかい?」
「いや、アタリすらないよ。魚は跳ねているのに・・・」
「あー、あれねアレは○○○(聞き取れなかった・・・)だよ。あいつらは決して餌を食ったりしない、藻とか草ばかり食ってるからね。釣りをするなら、あそこに見える橋の下あたりとか、あの牧場のふもとあたりがいいよ」と、男は対岸を指差す。
「ふーん、詳しいんだね。おじさん、この辺の人?」
「あー、ここで生まれ育ったんだ。子供の頃からよく釣はしたもんだよ」
「!!」
これはナマズが釣れるポイントを聞き出す良いチャンスだと思った私は男の方に近づいていった。
「じゃあ、この辺りでナマズが釣れるところ知らない?実はナマズを釣りたいんだ」
「それなら、ポートワイカトに行くと良いよ。アジア人がいっぱい釣りをしているよ。君はどこからだい?」
「日本からだよ。ポートワイカトって河口の方の事?ふーん、河口だと汽水域でナマズなんて釣れないと思ってたよ、ありがとう」
「OK、じゃ、グッドラック」
と男はまた仕事に戻るのか、トラックに乗り込んで行った。
このままここで釣りを続けても釣れる気がまったくしなくなっていた私もそそくさと片付けて移動することにした。男の言にしたがって、とりあえず橋を渡って見たが、車を停められそうな場所もなかったので、下流に沿った道がきっとあるに違いないと思いそのままその道をどんどん進んでいく事にした。どの道、半分はドライブが目的だと自分に言い聞かせながら。すると、道は見る見る人里はなれた風情を呈してき、とうとうオフロードになってしまった。ともかく方角的には下流に向かっていると信じて、そのオフロードをずんずん進んで見た。「こんなところで、このボロ車が壊れたら・・・」という不安な気持ちを振り切りながら進んでいると、目論見どおり下流の川沿いに出た。ホッとしながら降りてみると、捨てられ、燃やされた車が寂しい。辺り一面、割れたビール瓶が散乱している。夜な夜な若者たちが来ては酒宴を催し、捨ててある車に火をつけたりしながら盛り上がっているのだろう、まわりに家は無いので、こんなところで絡まれた日には無事では帰れないだろうと思いながら、釣りをしてみるかどうかしばらく考えたが、結局、もう少し進んでみて他に適当な場所がなければ、また戻ってくるさ、と思い決めて、先に進んだ。
しばらく行くと、また車を停められる場所に行き着いた。そこはボートランプがあったらしき場所で、木で組まれた船着場の残骸が残っている。だが、やはりここにも車が捨てられ、燃やされていた。おまけに今度は辺り一面ゴミの山だ。こんな人里はなれたところにわざわざゴミを捨てに来る人も居ないだろうから、誰かが付近のゴミを拾い集めて、それらをせめて一箇所に集めているのかもしれない、などと考えにふけっていると、何かが臭う。見回してみるとカラスの様な鳥が一羽死んでいる。
鳥の死臭が漂うゴミためで、しばしロハスについて考え込む。日本でも一昔前にはよく見られた光景だ。川辺に遊びに来てゴミを持ち帰らず捨てていく、車を盗んできては川べりに捨てる。そのうち、また別の誰かが面白半分にそれを燃やして遊ぶ。一人一人が少しだけ気をつければ少なくともゴミため場はできないが、一方では、環境に対する意識をある程度持つ人間一人一人がいくら気をつけていても、車を盗んでは河原に捨てる人間がいなくなるわけではなく、それを燃やして面白がる人間がいなくなるわけでもない。ボランティアで掃除する人、政府に働きかける人、環境保護運動や世間に対する環境保護の教化に動く人、そういう人達が居ない限り、間違いなく物事は解決しない。Catch and Release が奨励される鱒などのスポーツフィッシング対象魚と、Catch and Kill が奨励されるナマズなどの「害魚」に対する、その態度の極端な対比にも見られるように、結局、こういう問題はある種の闘いだな、どこの国でもそういう人間達の営みというのは変わらないな、おまけにその人間達の営みは、環境に対する意識が高い人間たちですら所変われば考えが全く異なる、などと思うのである。例えば鯨問題だ。ニュージーランドで鯨がおいしいなどと言おうものなら、大変である。彼らはかつては油をとるために鯨の殺戮を繰り返し絶滅寸前にまで追い込み、ニュージーランドは実際に捕鯨の一大基地でもあったという過去を持つ。そんな過去からは極端に考えを転回し、ニュージーランドはいまや鯨保護の急先鋒なのである。親日家のニュージーランド人ですら鯨問題に関してだけは日本を目の敵にする。どちらが正しいという単純な論争ではなく、これはもう単なる「仁義なき闘い」に見える。環境保護に対する考え方や関心の高さ、という事にもっとも大きな影響を持つものの一つは「教育」もしくは「教化」であろう。ニュージーランドで、環境保護に関する教育がどのように行われているのかは知らないが、そもそも、さまざまな価値観をもつ移民達が寄り集まるこの国では非常に難しい問題なのではないか。おまけに私の様にある程度の年齢になってから移住してくる人間をニュージーランド色に教育しなおすという事も非常に困難であろうし。実際に、こういうゴミため場を目のあたりにすると、ニュージーランドだからといって、みんながみんな環境に対する意識が高いわけでもなく、おまけに捨てられたゴミが自然に消えるわけはないし、むしろニュージーランドは今、実態としては、かつての日本が経験したような環境破壊国になりつつあるのではないか、などと考えてしまうのであった。。。
だが考えてばかりでもしょうがないので、「行動だよ、行動!」と思い直し、掃除を始めた、わけではなく釣りをはじめた(全然ロハスじゃない、のん気釣師・・・)。
釣りを始めてみると、すぐに反応があった。アタリがあったので、あわせてみると、いきなり「ギューン!」と竿はおろか、体ごと持っていかれそうになる。超がつく大物だ!だが大物過ぎて竿が負けてしまう。日本の川で80cmの鯉を釣ったことがあるが、それはそれは凄いパワーだった。だがそれでも今回と同じミディアムアクションのベイトロッドで何とか渡り合えたのだが、今回のは桁が違う。ABU5500Cのドラグはなりっぱなし、90cmウナギや日本で釣った鯉とは訳が違う。最後にはとうとう根に入られてピクリともうごかなくなった。糸を切るしかなかった。もしかしたらメーター級のナマズか、やはりメータクラスの鯉かもしれないと思い、気を引き締めて再度チャレンジ。するとまたすぐに反応があった。
こんどもひっぱりまわされ、さっきよりは少しはやりとりをしたが、最後にラインがふっと軽くなる。ラインをきられたかと思い、巻き取ってみると、今度は針が折れていた。やはりフライ用のフック(針のこと)では荷が重かったのか。針まで折られるなんて、私の釣歴の中でも初体験である。もう、だめだ、これはどうしようもない、とすっかり戦意というか釣意を喪失してしまった。今日のタックルではとてもあの魚と渡り合えない。次回はタックルを強化して、再度あの謎の巨大魚にチャレンジしよう。あの尋常じゃないパワーはひょっとするとそもそも魚ではなくカワウソか何か動物なのかも知れない。いつも独りでの釣行なので、本当はあまり大物が釣れてしまうと取り込み出来ないかもしれない。水中に引き込まれて土座衛門にならないように気をつけなければ、そんな心配をしてしまうくらいの未体験ゾーンの強烈な引きであった。
(つづく)
2006年11月14日
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今回はテーマにも迫る内容で読み応えありました。
いつもひとりで釣りをしているという部分に哀愁と情熱を感じます。
哀愁を感じていただいて光栄です(笑)正直、一人で釣りに行った方が自由が利くというか、ボウズでも黙ってれば誰にもばれないし(笑)あと、現場で会った他の釣り人と話すのも楽しいですね。友人とワイワイやれる釣りもそれはそれで楽しいのでしょうけどね(笑)